岐阜県飛騨地方には、「煮たくもじ」という郷土料理があります。「くもじ」とは方言で「漬け物」という意味で、元々は宮中で使用されていた言葉のようです。
高山は「飛騨の小京都」
今から約430年前、初代高山藩主、金森長近公は、高山盆地を流れる宮川を鴨川に見立てて、碁盤目状に区画を整えるなど、京を意識した街づくりを推進しました。また、蹴鞠や茶の湯をたしなみ、積極的に京文化を取り入れました。ゆえに高山は「飛騨の小京都」といわれ、くもじという言葉はその名残の一つといえるでしょう。
食べ物を大切にする精神
飛騨地方は厳しい降雪で野菜を収穫することがなかなか出来ないため、冬の保存食として赤かぶや白菜を漬け込みます。しかし、あまりの寒さに漬け物が凍ってしまうのです。そのような環境下でも発酵はゆっくり進みますが、春が近づき暖かくなりだすと乳酸発酵が一気に進み、味はかなり酸っぱくなってしまいます。
そこで、余った漬け物を捨てることなく再利用。何度も粗い塩抜きした後、軽く油で炒め、しょうゆ、みりん、砂糖、唐辛子などで煮込んでいきます。食卓に上がる煮たくもじは、春の訪れを告げる飛騨の風物詩なのです。